#20 土地を読む

#20 土地を読む

2024.10.15
有本の取り組み

『土地選びは難しい。』

そうよく言われます。
確かにいくつもある売地の中から予算や立地などを考えながら土地探しをするのはたいへんです。

お客様が選ばれた土地に対してプランをさせてもらう設計者として、土地を見させてもらってまず観察するのは『空気感』です。

曖昧な表現なのですが、なんとなくこの土地は『空気感がいいなぁ』とか、なんかジメジメしていて『空気感がわるいなぁ』というセンサーが働きます。

たぶんですが、皆さんもこのなんとなくの『空気感』というもの、ご経験があるのではないでしょうか。

風の抜けや、遠くの景色、近隣の建物から漂う『空気感』は人それぞれの感性なのですが大切にしてもらいたいです。

数年前に建築をさせて頂いた住宅も、はじめて敷地を訪れたときから、なんとなく『空気感がいいなぁ』と思ってしまった土地でした。

県道は少し騒がしいのですが、少し中に入った今回の敷地は周辺ものどかで、なぜか静けさがありました。

周囲の家屋も、お庭を綺麗に手入れされていて、失礼ながら借景にもなるなぁなんて考えていました。

そしてプラン提案の前に色々とヒアリングをさせて頂くと、お客様も周囲の環境が決め手だったことが分かりました。
住まい方や希望の暮らしなどをヒアリングしながら構想を練っていきます。
最後に形(=外観)について伺ったところ四角いスタイリッシュなデザインが好みとのことでした。


ヒアリングの内容を元にプランの検討を始めてみると、この土地の特徴が見えてきました。
この土地は三面を小さな道路に囲まれており、3方向に向かって窓を設けることができることです。
逆に言うと3方向からそれぞれ見られるということ。つまり3つの顔を持つことになるということです。

ここで引っ掛かったのが、『四角い外観』というお客様のご要望です。
四角い外観にした場合、どこから見ても四角い形をしていることになります。これは何かこの土地の良さを活かしきれないのではないだろうかということでした。

しかも四角い形を木造でつくろうとすると
①緩い勾配の屋根で四角っぽく見せる
②パラペットをつくって一面だけ屋根の背中を見せる
③パラペットをつくって屋根全体を防水処理する

→①は四角っぽくはなるが四角くはないのでなんかおかしいなぁと
→②も3面が道路に面しているのでうまく倉庫っぽくなってしまいそう
→③は雨仕舞や将来的な雨漏れなどを考慮するとできれば避けたい

ということを考えていったときに、思い切って屋根の形を勾配屋根にして3面それぞれに顔を持つ方がこの土地にはふさわしいのではないかということを考えました。

しかも、周辺の建物が瓦屋根の風情ある建物であることから、ここでも瓦を用いてみるのも面白いかもしれないという思い付きでした。


実際にこのようなスタディの内容を素直にお話して提案したところ、お客様もスッと納得してもらいその場で形が決まりました。


外観はとても大事なポイントだと思います。
せっかくであれば気に入ったデザインの住宅に住みたいものです。
好みを優先することもとても良いことだと思います。

ただときにはお客様の要望ではないかもしれませんが、せっかく高いお金を出して購入した土地なのでその土地のもつ特徴を活かした外観を提案してみるのもひとつの考え方としてありなのではないかと思っています。

私は建築の設計において、お客様のご要望の御用聞きではあってはならないと思っております。
ちょっと乱暴な言葉に聞こえるかもしれませんが、決してお客様の思いを無視しているわけではありません。
むしろお客様の潜在的なニーズを掘り起こすことこそが設計者として役割なのではないでしょうか。
要望を全て取り込んでくれるハウスメーカーも良いですが、お客様が望んでいるのは、言った通りにしてくれる便利屋さんではなくて、より良い提案があればその可能性も知っておきたいという思いだと考えています。

今回は『土地を読む』というテーマでお話しました。
『人』と『土地』は建築において非常に大きな武器です。
生成AIではつくることのできない唯一無二の存在をどう読み解くか。
これは何万件もの実績のあるハウスメーカーが過去に同じような土地でプランしたものから選んで提案しているものとは全く違ったアプローチです。

どちらが良し悪しという話ではありませんが、ここだけは譲れないし、これからの時代に生き残るためには大事にしなければならないキーワードだと考えています。


今回の施工事例はHPにてご覧いただけます。
ぜひご覧ください。

ではまた。