大工の見習い No.30
2023.05.10
トヨちゃんの回想録
そうこうしている内に春めいてきたある日、僕は用事が出来て家に帰った。
懐かしい我が家に入ってみると、なんだか安心でき何となく落ち着く。
ふと見ると、おやじとおふくろが釜戸で何か炊きながら話し込んでいた。
どうやら僕のお姉さんに男の子が生まれて、今年は初節句でこいのぼりを持ってお祝いに行くのだが、困っているようだった。
両親は苦労しているのだなぁ…可哀想に。僕の力で何とかしてやりたい、そう思った。
「お母さん、ただいま!」
「トヨちゃんか、よく帰ってきたなー!元気だったか?」
側にいた親父は「だいぶん仕事ができるようになったか?」
「元気じゃったよ。まぁ、安心しとって。」
用事も済ませ早く親方の家に帰るつもりだったが、何となく足が重い。
「トヨちゃん、ご飯食べてから帰りなさい。麦ばかりのご飯じゃけど。」
「我が家で何の気兼ねもなしに腹一杯食べられるのが何よりのご馳走じゃ。なあ、お母さん。もう少し待っていてな、早く一人前になって帰るから。」
「楽しみにしている。」
つづく
有本建設 創設者である有本豊敏が丁稚時代を語る。