大工の見習い  No.28

大工の見習い No.28

2023.04.12
トヨちゃんの回想録

今日は1月3日。

朝目が覚めて、今年の5月が来れば大工見習いも3年目に入るんだ…。

小遣いが無いとか遊ぶとか言ってはおれん。頑張って早く一人前にならないと、ここまで大きくしてくれた親父やお袋に申し訳がたたない。

僕たち子供6人を育ててくれた苦労を思うと、小遣いが無いぐらいわがままと言うものだ!

今日は道具の手入れでもしておこう。

鋸の目立ちをしたり、鋸の歯わけをしたり。

カンナの刃の裏出しをしたりすれば、1日では終わらないぐらい時間がかかる。

正月休みなので親方も家でゆっくりしているはず。

何かを聞いても、まさか怒ったりはしないだろう。

いや、怒るだろうな~。僕が何一つ尋ねても、気持ちよく教えてくれた事がない。

いつも、アホ〜の一言。

でも、僕に対して思いやりのある人だと思っていた。

朝起きて食事を済ませ外に出ていると、大阪から帰って来ていた親方の弟さん家族がこれから帰ると言うので、挨拶をした。と同時に、ヤレヤレと思った。

僕の頭の中では正月は昨日で終わりだ。一生懸命に道具の手入れをしていた。

すると側に親方が立っていた

ノミやカンナの刃を見ながら親方の方がこんなことを口にした。

刃物は裏押しがきっちりしていないと切れない。カンナの刃は、糸裏ノミの刃はべた裏と言う事は覚えておけ。よく1日中、中腰で出来るな〜。」

と言いながら去って行った。

後にお婆さんが、

「トヨちゃん、親方はトヨが一生懸命やっているので行って手入れの様子を見てやろう!!と言っていたよ。あなたの事を気にしているみたいよ。」

やっぱり気に掛けてくれている!!!

                                つづく

                      

 トヨちゃんの回想録『大工の見習い』

有本建設 創設者である有本豊敏が丁稚時代を語る。