大工の見習い No.29
2023.04.26
トヨちゃんの回想録
正月も終わり、仕事に出掛けるようになった。
僕にはお金もないし、休んでいるより叱られてもいいから仕事をしている方が良かった。
僕は、玄関の上り口に取り付ける箱段と言う仕事をしていた。
そこにお施主様が野良仕事から帰って来られ、僕が作っている仕事を見て、
「若い衆、良い仕上がりが出来ているようじゃが、その板はどうやって止めているんか?釘も打ってないようだし…。」
「その板の隙間から頭を入れて裏側を見て下さい。」
お施主様は、板の裏側を眺めていたが、頭を上げて
「結構手の込んだ仕事が出来ているんじゃなぁ。」
と感心しながら向こうに行ってしまった。
その姿を見ていた親方が僕のそばにやって来て、
「何にもわかっていない人にいらんことを言うな、馬鹿!どうやって出来ているのか分からんのが良いのだ。これから先は気をつけろよ。」
「ハイ。すみません。」
つづく
有本建設 創設者である有本豊敏が丁稚時代を語る。