大工の見習い  No.31

大工の見習い No.31

2023.05.24
トヨちゃんの回想録

僕は親方の家に帰りながら、

そうだ、まだほとんど新しい学生服を一着だけ持っていたので、あの服を質屋さんに持って行って、鯉のぼりを買ってお姉さんに持って行ってやろう!!

親方の家に帰って、学生服を風呂敷に包んだ。朝が来るのが待ち遠しかった。

朝そわそわしていると、おかみさんが

「今日はそんなに早く出て行くの?」

「はい。」と言い残して家を出た。

質屋さんに行き、玄関の戸をたたいた。

はーい。と、奥からご主人が顔を見せたが、僕の持っていた風呂敷包みを見るなり「何用なら。」

「すみませんがこの服でお金を貸して欲しいのですが・・・」

「馬鹿者!この子は朝早くからこんな物を持ち歩いて、何に使うんならお金を。」

僕は口が開かなかった。

そこにおかみさんが現れて、

「どうしたん?お父さん、大きな声を出して」

                                つづく

                      

 トヨちゃんの回想録『大工の見習い』

有本建設 創設者である有本豊敏が丁稚時代を語る。