大工の見習い No.32
2023.06.07
トヨちゃんの回想録
質屋の主人に叱られて、風呂敷包みを持って帰った。
その足で仕事場に向かった。一日中すぐれず長い一日であった。
夜ご飯を食べて、家の外にある石の上に腰を下ろして考え込んでいた。
そうだ、大工の見習いなんてやめよう。同級生が勤めている会社に入れてもらって働こう。
学校を卒業して3年になろうとしているのに、一円も儲けられなくて何が大工だ!
僕もよっぽど馬鹿な男だ…
そこにおかみさんが出てきた。厠にでも行くのであろう。
昔の田舎の家は玄関の外の右側か左側に小便専用の小便所があった。
暗がりの中で僕を見て、
「ヤァービックリした!!トヨか!!何をしょうんなら、そんなところで。」
「僕はもう大工を辞めようと思って考えていたとこで・・・」
「何があったんなら?今まで頑張って来たあれは何だったんなら…もう少しじゃろ~!親方も最近は、あの子も大分仕事が出来るようになった、と褒めているのに・・・」
そこでまた、僕は鯉のぼりの話をした。すると、
「そうか分かった。お前が大工見習いを卒業して帰るまでにお金を返すなら立て替えてやろう。だからあと一息頑張れよ。おばさんが親方に話をしておくから。明日にでも鯉のぼりを買って持っていっておいで。
ええな、辞めるという気など起こすなよ。早よ〜中に入って寝なさい。」
つづく
有本建設 創設者である有本豊敏が丁稚時代を語る。