大工の見習い No.35
2023.07.19
トヨちゃんの回想録
あれやこれやで日が暮れる迄かかった。
「仕事も終わるので今晩はご飯を食べて帰って。」と奥さんに言われ、いただいて帰ることにした。
親方は一盃を出され呑んでいた。
「大工さん、山道は暗くなると危ないのでこの提燈を持って帰って。」と手渡された。
親方も僕も自分の道具をかついで…
「ついてこいよ。」
「ハイ。」とは言ったものの、僕の方が道具が多くかなりきつい。
年齢はまだ17歳。そんなに力も無く、頑張って4~5百メートル歩くと休まないともう歩けない。
気が付いたころには、僕の前に親方の姿はない。
真っ暗で山道を下っていたが、山の木は生い茂って昼間でも暗いような谷間。
(困った、泣き出しそう…。でも頼れる人もいないし…。そうだ、この谷を下って行けば時間はかかっても親方の近くには、たどり着けるはず。)
腹を決めて歩いては休み、やっと明かりが見えた。
(やった〜親方の近所まで帰れた。)
僕の顔を見るなりおかみさんは、
「お前は何処で遊びよったんなら!親方が帰ってからもう一時間ぐらいになるがな~!!」
僕はもう口を開く元気もなかった。
こんな事も修行になるのだろうか?でも腹が立ったり不満などは全くなかった。
また明日から頑張ろう。おやすみなさい・・・!!
つづく
有本建設 創設者である有本豊敏が丁稚時代を語る。