#19 事件は現場で起きている
余談です。
私が設計の仕事を始めたころ、当時は設計事務所に勤めていた。
毎晩遅くまで図面や模型をつくる毎日で、ときには事務所に寝泊まりしてまで仕事をすることもあった。今のように労働環境が厳しい時代ではなかった。
設計事務所の仕事は、図面を書く仕事だけではない
『監理』という仕事も非常に大事な業務である
工事中の現場に行って、職人さんの仕事をチェックして、図面と整合性が取れているか、現場の安全は確保されているかなどをチェックをして、必要とあれば指示をする業務である。
20代の頃、現場監理に行くのが本当に辛かったのを覚えている
朝から現場にひとりで行くのだが、現場が近づいてくると吐き気をもよおす程気分が悪かった
なんせ右も左も分からない若造が、事務所で書いた図面を元に、ベテランの職人さん達からの鋭い質問攻めにあって、その場で即答を求められるのがとにかくしんどかった
難しい専門用語も飛び交って何を言っているのかさえ分からないこともしばしば…(涙)
事務所に帰ってからは所長から現場の報告を求められこれまたうまく説明できず怒られる毎日でした。
でもめげずに現場に通い続け、分からないことは現場で教えてもらいながら、それを事務所に戻ってまた所長と相談して改善点をまとめて、また現場に戻って職人さんと打ち合わせをする。そんなことを繰り返していくうちに自然と仕事を覚えていった。
とりあえず水に落とされてから泳ぎ方を自然とマスターするという、今ではちょっと乱暴のようにも見える教育方針の中で、育ったところはありますが、今思えば良い経験になったのではないかと思っています。
『事件は現場で起きているんだ。会議室で起きているんじゃない。』
いつかの映画の名シーンであるが、これは事件現場だけの話ではない。
建築の現場も全くその通りで、いくら事務所で図面をたくさん書いたとしても、それが現場に落とし込まれていなければ全く意味がない。
一軒の住宅をつくるには100人を超える人が携わることになることも多い。
多くの職人さんが出入りする現場においては、図面では分からない不都合が生じるのは当然のことである。しかも建築は最終的に壁で伏せてしまったら分からなくなってしまうことはたくさんある。これを先回りして指摘していくには、現場監理を徹底するしかない。
今は現場に向かうのに吐き気をもよおすことはなくなった。
どちらかと言うと現場に行くのが好きで、現場が進むに連れて変わっていく様が楽しみである。
職人さんと会話をしながら、問題点を探っていったり、もっとこうしたら良くなるということも見つけることができる。図面だけでは伝わりにくいことも当然あって、特に気をつけてもらいたいことは現場に直接書き込んで職人さんに分かるようにメッセージを残すようにしている。職人さんも完璧にはできないし、分からないこともあるのは当然なのでなるべく分かりやすく現場にお手紙を残すようにしています。
建築の技術は日々向上していますが、そんな現代であっても今のところ
『建築は人かつくるもの』には変わりありません
将来的にはロボットがつくるようになるのかもしれませんが、それにしても人が介在する必要性はなくならないでしょう。
人がつくる以上、ものづくりは現場で起きていることが全てです。
これからも現場の監理を徹底していきたいと思います。
ではまた