#4 なぜ建築をするのか

#4 なぜ建築をするのか

2024.09.20
有本の取り組み

余談です。

私が大学を卒業してすぐに就職をした会社では、土地活用営業という仕事をしていました。
駐車場や古家、畑などの土地を所有している方にアパートやマンション、テナントなどを提案し建築までをサポートする仕事です。

いわゆる地主さんと言われる方々をターゲットに提案をする訳ですが、向こうから何か建てたいから相談にのって欲しいなどというラッキーな依頼はなく、ほとんどは飛び込み営業で一軒一軒ピンポンを鳴らしていくスタイルでした。

毎日50件くらいはピンポンを鳴らしては迷惑がられるばかりでほとんど話を聞いてすらもらえないのが日常でした。しかも社会も何も分からない大卒の若造を相手にして、数千万、数億の仕事を任せてもらえることなどほぼありません。

そんな中、何度も通ってようやく話を聞いてくれるようになり「じゃあ何度も来てくれてるし何か提案してくれるかい!」と言われました。

私はプレゼンのアポが取れたことだけでも嬉しくなり、急いで意気揚々と会社に戻り上司に報告しました。

戻って上司に報告すると、当時の上司は

「なぜこの人は話を聞いてくれたんだ?」
「この人が建築をすることでどんなメリットがあるんだ?」
「この人がうちの会社で建てるとどんな良いことがあるんだ?」
「この人の家族構成は?」
「他に所有している敷地は把握しているのか?」
「どうして今まで何も建てなかったの?」
という質問攻めにあいました

私が勤めていた会社はそれなりに大きな会社で今では一部上場企業です
そこに集まる営業マンも一流の人ばかり

当時の私は何も答えられず先ほどまでのテンションはどこへやらで、すっかり落ち込んでしまいました

しかし、ヒアリングをすることを整理し再度訪問してみると色々と話をしてくれました
度重なる門前払いにもめげずに通った甲斐もあって腹を割って話すことができたのです


土地活用の営業では、その人のプライベートな部分まで踏み込まないとより有益な提案はできません
聞きにくいこともありますが、素直に聞ける間柄を構築するまで辛抱強く通うことが欠かせません


話しを戻すと、建築営業をする上で最も大切なことは

『なぜ建築をするのか』

を明確にしてあげることです。
私は営業を通じてこのとを徹底的に叩き込まれました。

建築をすることでどんなメリットがあるのか。
建築をしなければどんなことがデメリットが生じてしまうのか。
もしかすると建てない方が良い可能性もあります。

土地活用営業では、固定資産税や相続税対策などの税金対策、所得が少ない場合は補填する目的、空き家になっているが解体が億劫で手をつけていないなど様々です。

相手が何に課題を抱えていることが分かれば、それを解決するにはどのような提案をするべきかも自ずと見えてきて、それに合わせた提案をすることで仕事が生まれてくることを学びました
時にこのような理由は、相手が潜在的にもっている悩みで言葉にしてくれないことも多々あります
会話の中から予測をして潜在的な目的を明確にしていくのも大切な力量です

土地活用営業では主に、なぜ建築をするのか?という回答はほぼ『お金』です。
収益性であったり、税金対策がほとんです。
それが間違った考え方では決してありませんし、それで救われる人もたくさんいるのも事実です。

しかし、『なぜ建築をするのか?』という問いに対して、もっと感情的な面にも接したいという思いが私の中にあって、営業の仕事を辞め、建築家という目標に向かって進むことにしました

現在は主に住宅を中心に設計を担当しています
ここでも私は『なぜ住宅を建築するのか?』ということを念頭に設計をしています

住宅の場合で最も多いケースは賃貸住宅に住んでいる方で、家賃を払うくらいならローンを払って自分の資産にしたいからという理由です
次に多いのが老朽化したので建て替えざる負えない場合などの危機的状況が迫っている場合です

確かにそれはそうなのですが、私はもう一歩踏み込んで『なぜ建築をするのか?』という問いを考えます
これはほとんどの方が考えていないことが多いのですが、中には自分には気づいていない潜在的な理由がある場合があります

猫と暮らす家が欲しいとか、家族との時間がなかなか取れないので家族が自然と集まれる場所のある家が欲しいとか、片付けが苦手だから家事がしやすい家に住みたいとか、先祖代々から受け継がれている建物だから何とか残したいとか・・・理由は様々です

その結果、もしかすると新築するのではなく賃貸住まいをするのが良い場合もあるし、マンションを購入することも考えられます。
もしこの理由が見当たらないのであれば建築する時期が今ではないのかもしれません。

私は『なぜ建築をするのか』という答えを形にすることが設計士としての役割だと考えています。
まだまだ未熟ではありますが、誰かの役に立てる仕事ができればと思い日々精進しています。

ではまた