#5 大工さん不足が深刻
以前住宅の設計を担当させて頂いたご家族の娘さんが地鎮祭のときに
『こんなに暑い中でお仕事をするのは可哀そうだから大工さんにはもう少し涼しくなってからにしてもらえませんか?』
と言われたことがある
この時はなんて優しい子なんだろうと思い胸が熱くなったのを覚えています。
その時は、工期が迫っていたこともあり予定通り工事をさせてもらったのですが、確かにこのところの夏の暑さは異常です。大工さんだけでなく現場の職人さんは汗だくになりながら頑張ってくれています。
とはいえ年中仕事は入ってきますし、仕事をしないと生活をしていけないので暑かろうが寒かろうがどこかしらの現場でお仕事をすることになるので仕方ないといえば仕方ない話でもあります。
大工さん不足が深刻化
現在日本の大工さんの4割以上が60才以上と言われています。
また2035年には今の大工さんの数は約半分に、2045年には1/3になると言われています。
この問題は業界の中でも問題視されており、既に大手ハウスメーカーなどは社内大工の育成に力を入れ始めています。
実際に我々工務店を営むうえでも大工さんの確保は難しくなっているのを肌で感じています。
高齢化もあり以前からお付き合いのある棟梁が離脱してしまったりすることはよくあります。
少ない大工さんを多くの工務店やハウスメーカーが取り合う状況になっているのが現状です。
となると、より多くの資本のある大企業の方が賃金もよく納まりも簡易な会社に大工さんが引き寄せられるのは目に見えています
とは言え我々のつくる住宅は性能的にもデザイン的にも細部にまでこだわりを持った家づくりを信念にしていますので、確かな技術を持った大工さんにしか依頼しないことは徹底しています。
社内大工の育成
これは有本建設が今後取り組んでいきたい試みです。
ある意味社会的にも取り組まなければいけないミッションだと思っています。
有本建設の創業は今から55年前
1990年代に工場で木材を機械でカットして継ぎ手(木と木の接合部)に至るまで機械で加工する『プレカット工法』という技術が一般化するまでは、自社の事務所の1階で大工さんがひとつひとつの木材を刻んでいました。
手刻みなので少しでもズレがあると家が傾いてしまうし、上棟の日には作業がストップしてしまいます。
今では手刻みで木を加工することは、他の工務店でもほとんどありません。
そんな現代でも手刻みによる加工を得意とする設計士さんからの要望で全ての木材を手刻みで加工した住宅を施工させて頂く機会がありました。
毎日汗だくになりながら図面とにらめっこをしながらカンナやのみを用いてひとつひとつの木を加工していく姿を目の当たりすることができました
滅多にない仕事だったので大変だったと思います。
プレカットであれば機械で加工しているので、大きな間違いが生じる可能性は低いのですが、この時ばかりはつなぎ目がひとつ間違っているだけで棟が上がらなくなってしまうこともあり、上棟日前日は不安でいっぱいだったと言われていました。
木は同じように見えても一本一本違った性質を持っています。人間と同じです。
その性格を読み取りながら加工していくと木が生き生きとしてくるそうです。
今後は大工さんの不足に伴い、現場のプレファブリケーション化が進むことは間違いないと思われます。これはある程度固まった部分を工場で組み立てて、現場ではそれを立体パズルのように組み立てていく手法です。
要はさらにプレカット工法が進化していくことでしょう。
セキスイハイムさんのユニット工法はこの工法をいち早く取り入れたものでした。
これは鉄骨造での手法でしたが、今後は木造でも進むのではないでしょうか
建築技術が進歩していくことは良いことだと思います。
それによって社会がうまく回るようになるのであればどんどん取り入れるべきだと思います。
しかし建築はなんだかんだ人がいないとつくることはできません。
大工さんでなくては出来ない仕事は必ず残りますし、残していきたい技術です。
社内大工の育成についてはまだまだ検討段階で実行には移せていない状況です。
岡山という地方都市にあるだけでなく、岡山市内からも離れた備前市にどうやって人を呼び込むか。教育体制はどうするか。
大工以外でも人手不足の中、地方都市のさらに地方の小さな工務店が大手ハウスメーカーに負けない体制で人材を確保するにはどのようなことが出来るのか。
地方の小さな工務店ならでは方法を模索しています。
我々にしか出来ない方法で大工さん不足を解消し、職をつくり、まちを豊かにできたらと思っています。
ではまた