大工の見習い No.22
2023.01.18
トヨちゃんの回想録
やがて稲刈りが来た。
稲刈りが終わると、牛で田んぼを耕して麦をまく。牛で田を引くのは僕しかいなかった。
八反の田を僕一人で耕した。僕が牛を引いて薄暗くなって帰ると、家の人は食事を済ませ、親方やお爺さんは風呂に入っていた。
秋も深まるある日の晩に、こんばんはーと、呉服屋さんが服を売りに来た。
すると息子は
「おかあ、わしはもう服はいらんぞ。長持ちの中は服で一杯。そんなに着れんから。」
すると呉服屋さんは、すかさず
「奥さんあんたとこの若い衆はこのエンジ色のセーターが欲しかったのです。」
と僕のことを言った。するとおかみさんは、
「要らん。あの子は服をぎょうさん持っているので。」
障子の向こうで寝ていた僕はそんな馬鹿な、服なんか一枚もありません!!と叫びたかった。
稲刈りなどの手伝いを一生懸命でやってもセーターの一枚も買ってもらえない。
親方のおかみさんは僕の父の姉なのに、僕が着のみ、着のままであることも一番よく知っている筈なのに。
まーいい、早く一人前になって自分が稼いだお金で買おう。
つづく
有本建設 創設者である有本豊敏が丁稚時代を語る。